[ちょっとしたトラブル]
夜明けのドライブウェイ
スーツケース引きずって歩く
半年前からくどいぐらいにいろいろ下調べをして、「これがうまくいかなかったら、あの手でいこう」みたいな想定をいろいろしていたので、ほぼ予定通りにすすんだ山行でした。ですが、その中で一点だけ、想定しなかったちょっとしたトラブルに見舞われたことがありました。
登山初日の朝のことでした。
私はここまで、ザックとスーツケースの二つの荷物を携えて、移動してきていました。こんな山行も初めての経験でしたが、登山初日にそのスーツケースを公園本部に預けてから出発する必要があったのです。
事前の下調べで、この公園本部で、スーツケースを預かってもらえることはわかっていました。ただその具体的な手続きや段取りについては不明でした。やっぱり現場へ行ってみると、情報が違っていたり、さらにわからないことが出てくるものです。
前日にカシミールくんと打ち合わせをしました。以降、カシミールくんとはお別れになるので、もう日本語通訳をしてくれる人がいません。
このスーツケースについては、登山初日の朝、出発前に、自分が宿泊しているロッジから公園本部に電話をかけて依頼すれば、荷物を引き取りに来てくれるシャトルバスがあるという話でした。このロッジから公園本部までは、歩けば結構な距離になるからです。
それで出発日の早朝5時半。いよいよ予定の時間が来たので、私はロッジから公園本部に電話を入れたのです。なんと言えばいいのかといろいろ考えたあげく、出てきた言葉は一言、「Shuttle Bus Please」。片言も片言の英語でした。
ところが電話の相手は、「Not avalable(できない)」と言うのです。びっくりしました。話が違うではないか。よく話を聞いてみると、どうも前日にカシミールくんが聞いていた情報とは内容が少し違うようでした。
カシミールくんの話では電話をすれば随時シャトルバスが来てくれると言う 内容だったのだけれど、ところが実際のところは、「荷物を宿泊施設の中に置いておけば、後で順番に回収してゆく」というのが本当のサービス内容だったのです。
しかしこれでは私は困ってしまいます。なぜなら・・いつ来るのかわからないシャトルバスを待っているわけにいかないし、それを待って運んでくれるのを頼んだとしても、その後に公園本部で預けるための手続きをしなければなりません。それではどんどん時間が遅れていくし、段取りが狂ってしまいます。
仕方がない。私は「歩いて行くよ」と相手に伝えて、電話を切りました。それからスーツケースとザックを持って、ロッジを出ました。あたりはまだ真っ暗。頭にはヘッドランプをつけました。そうして、暗闇の山中、ドライブウェイのようなところを、スーツケースをゴロゴロ引きながら、約20分かけて公園本部まで歩いていきました。
前日に、公園本部のところにあった施設内の地図を手元にもらっていたこと、また公園内をぐるぐる歩き回っていたことから、およその道順はわかりました。もし、それをしていなかったら、この「夜明け前の行軍」も怪しいもので、道に迷ったかもしれません。
後になってみればこれでよかったのです。私はそれからもう一度、ロッジと公園本部の間を一往復することになるのですが、以後、万事が予定通りに進んで、準備を済ませ、待ち合わせの時間にガイドのトーマスくんと落ち合うことができました。
公園本部でスーツケースを預ける手続きも、英語でのやりとりだから、まごまごしてしまいましたので、時間に余裕がなくて順番待ちの列に並ぶようなことになれば、焦ったことでしょう。
登山のシステムそのものがここでは日本とだいぶ違っていること、それを理解して準備や手続きをすることがポイントになってるな、と感じる山旅でした。
なんにしても事前にできるかぎりの情報を集めておくことは必要だし、想定通りにことが運ばなかったときにどうするかを考えながらやることって、大切だな、と、改めて思いました。