[キナバル山頂部] 岩の造形美
まるで月世界のような
日本では見たことがないスケールの大きさ
山頂のプレートの前で写真を2枚撮ってもらった。つぎつぎと登山者がやってくるので、それ以上はそこに居られなかった。あとで明るくなってからわかるのだけれど、このプレートの向こう側は断崖絶壁になっていて、数年前に滑落した登山者が1名あるという話だった。
そこから少し下って、夜が明けるのを待った。欧米人の若い女性らが「イエーッ」みたいな感じで盛り上がっていたし、夜が明けるのを待ってカメラを構えている人たちも多かった。少しずつ少しずつ明るくなってくる。山陰と広大な一枚岩の平べったいところ、そこに後続の登山者たちのヘッドランプの明かりが続いていた。
夜が明けると、そこは月世界かと思うような、とんでもないスケールの、岩の造形美の世界が立ち現れてきた。キナバル山の山頂部の世界は、想像をはるかに超えていた。ピークはいくつもあって、それぞれに名前がついている。右手に見えるピークは、北アルプスのジャンダルムのような感じかな、その左手に見えるピークは槍ヶ岳のような姿だな。そしてさらに左方向へと目を転じると、西穂高から奥穂高へと続く 穂高連峰ようだと思った。
もしそれらの岩場に登ることが許されるなら、世界中のロッククライマーたちがここに押し寄せてくるだろう。だけれどもそういうことは許されていない。ちなみにこの帰りのコースに、ハーネスやカラビナを使い、岩に張られたワイヤーに自分をつないで安全を確保しながら降りてゆくヴィアフェラータのコースもあったが、それは1日12人限定とされていた。
ゆっくり、景色を楽しみながら、少しずつ、下山してゆく。さきほどの通過ポイントのところまで下りてみて、そこが断崖絶壁に設けられた階段コースとなっていつのに気づいた。暗闇の中でを自分も登っていたのだ。暗かったからわからなかったけれど、明るい中で登っていたらもっと足がすくんでいたかもしれない。
森林限界のところまで下りてくると、そこは日本の山の情景に近い印象を持った。岩と緑と雲海。青い空。これは見慣れた感じの風景だなと思っていると、やがて山小屋が見えてきた。